11/21/2013

個人の健康から日本の未来が始まる

日中は日差しが暖かいですが、朝晩はぐっと冷え込んできました。
冬が近づいてくる気配を感じます。

健康教育情報誌「家族と健康」 2013/10/1に政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットの先生方のお話が掲載されました。

個人の健康から日本の未来が始まる

「健康経営は超少子高齢化社会の日本において、人々の健康と生産性の両方を追求していく経営の在り方です。これを確立し推進していくことは、今後の日本経済発展の鍵を握る最大の政策課題の一つといっても過言ではないでしょう。」と同センターの尾形特任教授。

私たちの健康を気遣っているのは自分自身や家族だけではありません。
会社・地域・国が私たちの健康づくりに積極的に取り組んでいるのです。

今朝の新聞にもオリックスが自社の従業員向けに脳ドック検診を実施した記事が掲載されていました。
今後このように従業員の予防治療に力を入れる企業が増えてきそうです。

11/08/2013

言葉の危険からの脱却 ― 成熟トルコ 訪ねて実感

こんにちは。
今日は爽やかに晴れて、どこまでも歩いてみたくなるそんなお天気です。

政策ビジョン研究センターのホームページに下記のコラムが掲載されました。

言葉の危険からの脱却 ― 成熟トルコ 訪ねて実感

トルコは世界遺産も多く親日国と言われていますし、私自身も訪ねてみたい国の一つです。
子供は言葉が通じなくても友達になれるように、言葉の壁があっても、お互いの表情や態度を見ながら直接対面する方が真意がわかるものなのでしょうね。

10/24/2013

京都大学iPS細胞研究所にて

台風の影響で、とうとう東京も雨が降り始めました。
2つの台風が近づいているということで、少し不安です。

さて、京都大学iPS細胞研究所では中高生向けに研究体験プログラムが開催されました。
1年前、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞しiPS細胞が脚光を浴びるようになる以前から始まり今年で3回目のようです。
細胞を観察したり、特徴を学んだり、iPS細胞の先進機関でこういった体験をした学生が、医療の分野で将来目覚ましい活躍をしてくれるといいですね。


10/09/2013

Over the century: for Second Century at a Thinktank

皆様、こんにちは。秋めいた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

ワシントンD.C.も秋が深まっているのを感じます。わたしは、1年前に約2ヶ月間ここに滞在していたのですが、ちょうどその頃もこのような優しい
日差しだったかもしれません。懐かしい思いでいっぱいです。


今日は、シンクタンクのお話しです。ビジョンセンターは、大学発のシンクタンクとして何とかその活動を続けていますが、今日、面白いお話しを聞き
ました。創立90年を超えた世界有数のシンクタンクが、次の100年に向けた活動方針を示したクローズドセッションで、我々の雰囲気は大学に似ているというのです。質の高い、独立性のある研究をするという点において、そのシンクタンクは大学と同様であるが、ただ1つだけ違う点があると。それは、「社会に与えるインパクト」なのだそうです。

アメリカでは民間のシンクタンクが政策形成に大きな影響を及ぼしていると長らく言われていますが、これまでの約100年の歴史は、シンクタンクがいわゆる「大学」とは違うことをまざまざと見せつけています。

ビジョンセンターが大学という場所にありながら、アメリカで言うシンクタンクになりうるのかという深遠な問いはさておき、わたしは、あるシンクタンクの一員で居られることが率直に嬉しく思いました。ただ居るだけでは無駄ですが、それでも、アメリカが約100年前に生み出した政策形成のツールの
一端を内部から見られることを、素直に感激してしまいました。

すでに公開されているプロモーションビデオ、お時間の許すときにご覧下さい。
ビジョンセンターが目指すべきシンクタンクがそこにあると思います。


http://www.youtube.com/watch?v=4JaS3xMiBCg


またときどきシンクタンクの話をしますね。


10/08/2013

職務発明制度

今日も秋晴れのいいお天気です。

東京大学政策ビジョン研究センターの渡部俊也教授の記事が産経新聞に掲載されました。

【論風】東京大学政策ビジョン研究センター教授・渡部俊也 企業の発明奨励に向けて

経済産業省・特許庁は2014年度中をめどに、政府の成長戦略や知的財産政策ビジョンで柱と位置付ける職務発明制度を見直す方向性を固めており話題になっています。
職務発明制度の法人帰属への改正の中で社員のモチベーションをいかに引き出すか、各企業での重要なポイントになるのではないでしょうか。

10/04/2013

平成25年度 東京大学秋季入学式

こんにちは。
今日はグッと寒くなりました。

東京大学では、平成25年度の秋季入学式が行われています。

入学シーズンと言えば春のイメージでしたが、最近ではいくつかの大学で秋入学を取り入れています。
国際化に対応できるメリットがある一方、学生にとっては高校を卒業してから大学に入学するまでの期間が長くなり、そのため親の経済的負担が増えたり、就職の時期が遅くなるなどデメリットもあります。
秋入学は定着するまでに時間がかかると思いますが、学生がその半年間をどのようにとらえ、有意義に過ごすかどうかでメリットにもデメリットにもなるように感じます。

それにしても希望に満ちた学生の姿を見るのは嬉しいものですね。


10/03/2013

成年後見人の実務の実態とは (3)

こんにちは。
あっという間に10月になり、今年も残すところ3か月となりました。
いちょうの葉が黄色く色づき、銀杏がたくさん落ちています。

政策ビジョン研究センターのホームページに第3回成年後見人についてのコラムが掲載されました。

今回は後見人の業務が親族後見人や本人の親族、そして本人にどう評価されているかについてです。

本人は判断能力が不十分な状態にあるため、後見を受けることでどのような思いを持ったかということを、正確に表明することは難しいですが、親族後見人や本人の親族においては、後見制度を利用したことについて、むしろ否定的な評価をしています。
両者ともに満足できるように制度を見直すことが必要となるのではないでしょうか。


成年後見人の実務の実態とは (3)
成年後見人の業務はどう評価されているか

9/27/2013

Postmarket Surveillance of Medical Devices: A Comparison of Strategies in the US, EU, Japan, and China

こんにちは。
今日は秋晴れのとてもいいお天気です。

さて、当政策ビジョンセンターの先生が下記の論文を発表されました。
ぜひご一読ください。

Postmarket Surveillance of Medical Devices: A Comparison of Strategies in the US, EU, Japan, and China

9/17/2013

台風18号

こんにちは。

今日は秋晴れの素晴らしいお天気になりましたが、三連休中は台風18号の上陸で日本列島は強い雨や風に見舞われて大変な被害になりました。
気象庁は京都、滋賀、福井の3府県を対象に、初めて大雨特別警報を出しました。

東京でも靖国神社の大木が倒れ、清掃員の方が重傷を負っています。
今朝、靖国神社を通りましたが、こんなに大きな木が倒れてくるなど考えられません。

ゲリラ豪雨や竜巻など、最近は自然災害が非常に多くなってきているように感じます。
自然との調和を大切にしつつ、快適な生活ができるよう真剣に考えなくてはならない時期がきているのではないでしょうか。

9/13/2013

消費税8%

こんにちは。
9月は3連休が2回もあり、なんだかワクワクします。

来年4月から消費税率を現行の5%から8%に引き上げることが予定されています。
政府は増税分のうち約2%相当分の経済対策を実施する考えですが、増税によって景気回復に陰りが出ることを心配する人も少なくありません。

日本は世界に比べて消費税率は低いですが、イギリスなどの先進国では食料品の消費税はゼロに設定している国も多く、贅沢品と生活必需品の税率を分けています。
また、スウェーデンなどは税率は高い代わりに社会福祉が日本とは比べ物にならない位に充実しています。

日本は消費税率アップによってどうなるのでしょうか。
税金が適切に使われることを祈るばかりです。

9/12/2013

公開国際シンポジウム「折れない心を育てるweb研修サービス」

こんにちは。
今日は秋晴れの気持ちいいお天気です。
早朝はピンと張りつめた空気が心地よく、素敵な1日が始まる予感がします。

さてここ数年、新卒大学生のうち3年以内にやめる人が3~4割にも昇り、離職率の高さが問題視されています。
働く人だけでなく企業側にも問題はありますが、ストレスを溜めない工夫をしてもう少し留まることで、開けてくる道もあるかもしれません。

東京大学では「折れない心を育てるweb研修サービス」シンポジウムを開催致します。
考え方や行動を少しだけ変えることでより充実した生活を送れるように、web上で支援することを目的として開発された「ココロストレッチ」で充実した生活を送れるようになるといいですね。


公開国際シンポジウム「折れない心を育てるweb研修サービス」 (情報理工学系研究科)


9/10/2013

「高校生のための金曜特別講座」

こんにちは。
爽やかな風が気持ちいい季節になりました。

東京大学では高校生を対象とした公開講座を開講しています。
高校生の勉学意欲を高める一助になればと、教養学部教員が学問研究の面白さや重要さを分かりやすく解説します。

私が高校生の時に同じような講座が開講されていたのかはわかりませんが、今はホームページで様々な講座やセミナー開催をお知らせできることで素晴らしい機会が得られることを羨ましく思います。

東京大学では入学した学生の知識を高めるだけでなく、高校生、一般の方向けにも様々なセミナーを企画しております。
たくさんの方が参加され、自身の意欲向上そしてそれに留まらず日本の発展につながると嬉しいです。


「高校生のための金曜特別講座」

9/06/2013

成年後見人の実務の実態とは (2)

こんにちは。
9月に入り、朝夕は比較的過ごしやすくなりました。
このまま秋になるのでしょうか・・・

政策ビジョン研究センターのホームページに第2回成年後見人についてのコラムが掲載されました。

一般に後見業務は、財産管理と身上監護の2つに大きく別けることができます。
身上監護(事実行為)の実施頻度は非常に多く、特に親族後見の身上監護(事実行為)が多くなっているようです。
また、実施時間で見ても1年間における身上監護(事実行為)は88時間となっており、財産管理や身上監護(法律行為)の実施時間に比べて際だって長くなっています。

身上監護の負担は大きいですが、後見報酬の増加にはつながらないという問題について考慮する必要があるのではないでしょうか。

成年後見人の実務の実態とは(2)財産管理と身上監護を中心とした考察

9/05/2013

収穫の季節

こんにちわ。
9月に入り、もう1週間が経とうとしています。
けたたましいセミの鳴き声も、照りつける太陽の日差しも影をひそめ、
熱かった夏から、徐々に穏やかな秋の気候へと移ろいつつあるのを感じるようになってきました。

秋といえば、収穫の季節です。
農家にとっては、田植えや種まきなどに始まり、その後の育成に多くの労力を注いだ結果がようやく実りを迎える時期です。
「政策」についても、同様のことがいえます。8月末で一通りの概算要求が出そろい、新聞各紙では「〇〇省が新たに~な事業を行う予定」などという文言を多くみかけるようになりました。ここでいわれる新たな事業や政策と呼ばれるものはみな、年度が変わってから、あるいは昨年度のうちから、多くの人の手により丁寧に育てられた果実たちです。

ただし、実際にはこれから査定の季節を迎えるわけであり、それぞれの果実が本当においしいものかどうか、安全であるかどうかなど、出荷前にクオリティのチェックを受けなければなりません。
厳しい品質チェックを通過したものだけが、国民のもとに政策として届けられることになるのです。

農家(官僚)にとっては、一夏を終えた今からが本当の意味での「夏」といえそうです。

9/03/2013

「成長戦略」の話をしよう(3)

前回は、成長戦略が生み出される場となった産業競争力会議について、その体制面における特徴を整理してみた。今回は、実際にどのような運用がなされたのか点について、主要な論点の一つとされた「日本版NIH」構想を素材にその議論の推移を追いかけることで、運用面における特徴をみてみたい。


1.はじめに
「日本版NIH」と同種の構想は、これまでにも度々論点として取り上げられてきたものの、議論の成熟をみることはなかった[1]。それにもかかわらず、政権交代後の数か月の間で国家戦略にまで謳われ、さらには2013(平成25)7月末に行われた参議院議員選挙における与党の公約[2]に掲げられるほどの争点に至ったのはなぜであろうか。
「経済財政諮問会議」型審議会のひとつである産業競争力会議では、上述のように、経済財政諮問会議がそうであったように、外部からの参加者である民間議員の果たす役割が大かったといえる[3]。以下では、会議資料等の公文書および安倍政権が段階的に公表を行った各成長戦略に関きいする新聞報道等を用いながら、「日本版NIH」に関する議論がどのような形で進められてきたのか、特に民間議員による議論の主導に着目しながら運用面における特徴を整理する。


2.アジェンダ・セッティングと「ミス」リーディング
民主党から自民党への政権交代後まだ間もない2013(平成25)123日に開催された第1回産業競争力会議において、いわゆる民間議員の1人である経済同友会代表幹事・武田薬品工業代表取締役社長の長谷川閑史が「日本版NIH」について言及したことが、この度の構想が実現に向けて具体性帯びる契機となった。
もともと長谷川は、産業競争力会議の民間議員就任以前から医療イノベーション推進会議等の政府における懇談会の議員を経験しており、経済同友会代表幹事の立場から「日本版NIH」の創設の必要性を積極的に主張していた[4]。歴代政権において策定された成長戦略が実効性をともなわなかった理由として、「『省庁間の連携を密にして』といつも言われるが、実際にそうなった試しがない」ことを指摘しており、各省間の調整過程において「政治的主導」が機能していないことに重大な問題があるとしていた[5]。このような調整を要する重要政策における「政治主導」の不在に対する問題意識は、産業競争力会議の場においても繰り返し強力な「リーダーシップ」の必要性について言及されていることからもうかがえる点である[6]
会議の席上、各議員に成長戦略の具現化に向けた意見表明が求められるなか、長谷川はまず「現在、文科・経産・厚労に分かれている予算の一元化を考えて欲しい。諸外国ではこのようなアカデミアとインダストリーをブリッジングする組織が設立されており、日本でもこれまで何度も提案されながら実現に至っていない」[7]と述べ、日本版NIHに関する議論のフレーミングを行った。すなわち、産業競争力会議における議論の対象として「日本版NIH」の設置(=「成長戦略の具現化」)を取り上げ、最終的には「成長戦略」に盛り込むよう要請したうえで重要な論点として、①医療分野に関する予算の一元化、②アカデミア(基礎研究および臨床研究)とインダストリー(産業化)の架橋の2点を会議の議題として埋め込んだのである。この点については、長谷川によって提出された資料からも確認することができる。資料のうち「具体的に議論すべき論点」の「事業環境の整備」という節では、「規制制度改革」に並んで「研究開発の推進」という項目が設けられており、「科学技術研究費は各省に分断され、研究テーマの重複や非効率がある」ことから、特に医療分野については「『日本版 NIH』を設置し、ここに各省の持つ予算の要求・執行権を集中させることにより、権限、予算、人材を一括管理する仕組みを作り、そこに結果責任も負わせることにする」[8]べきであるとしている[9]
 その後に開催された産業競争力会議においても、NIHに関する議論を主導したのは長谷川であった。2013218日に開かれた第2回産業競争力会議では、長谷川はNIHに関して次のような指摘・提言を行った。第一に、文部科学省(基礎研究)と経済産業省(応用研究)間の連携・分担の機能不全についてである。両省は、研究に関する調整を行うことが予定されているものの、実際にはこれが機能していないという認識のもと、その調整機能を何らかの形で創設するべきだと主張した。第二に、文科省、厚労省、経産省の予算の集約と一元的な配分・執行を行う機能の創設である。各省がそれぞれが独立して、分散的に研究資金を管理・執行することが非効率であるという指摘である[10]。これにより、調整機能と予算の一元的分配機能を有する機関の創設という論点が追加された。
 しかし、同時に提出されている資料からわかるように、この段階においては各省間の調整と研究資金の一元的分配を担う組織として期待されていたのは、「日本版NIH」自体ではなく総合科学技術会議であった。イノベーション推進体制の強化のためには、司令塔機能の抜本的強化が不可欠であるとされ、「重点的に実施すべき府省横断プロジェクトに関しては、総合科学技術会議の司令塔機能を強化し、その下で、予算案策定から、配分・執行までを一元的に行うと同時に、同会議がチーム編成(人材配置)や推進も行うべきである」とされた。ここではNIHについては、「各府省のファンディングにおいても総合科学技術会議がプログラムレベルでつなぐ権限を持つことが望まれる」と指摘されているように、総合科学技術会議の指揮下で各府省の実施する施策を「つなぐ権限」を有する組織として想定されている[11]
このようなNIHに関する長谷川の整理が意図的に操作されたものであったかどうかは定かではないが、ともあれこの長谷川による論点整理により、「日本版NIH」をめぐるその後の議論の方向性が決定づけられたことは間違いない。その意味で、「日本版NIH」は政府サイドから提起された論点というよりも、安倍政権が規制改革を志向するなかで積極的なコミットを求めた民間委員による役割が大きな影響を与えたものといえる[12]


 












3.テーマ別分科会における論点整理と各省間の駆け引き
「日本版NIH」をめぐるその後の議論は、産業競争力会議下のテーマ別分科会「健康長寿社会の実現」にフィールドを移すことになる。このテーマ別会合は、322日と419日の計2回開催された。分科会が開催された段階で、既に長谷川ら産業競争力会議議員の意見を中心に叩き台と呼べる「ペーパー」が作成されており、ここでは実質的に分科会委員による賛成の調達がなされた[13]。また、ここまでの長谷川ら民間議員による議論のリードだけでなく、実際の制度化を視野にした文科、厚労、経産の各省大臣による各省の利益をめぐる綱引きゲームが行われた[14]
まず長谷川によって「日本版NIH」の必要性が提起され、各委員によってペーパーを基に意見が出されるという形式で進められた。長谷川による説明は、①「橋渡し」、②「少ない予算の効率的投下」といったキーワードからうかがえるように、第1回および第2回産業競争力会議における発言と基本的には内容が重複するものであるが、組織設計として各省の所管する独立行政法人の統合について言及している点で一歩踏み込んだ議論であったといえる。長谷川は「これらを実現するためには、各省の所管している独立行政法人研究所を統合し、それぞれが日本版 NIH に所属する研究所として産学官共同で研究を行う体制を構築すべき」と述べたほか、各省間の「緩やかな連携」についても否定的な見解を示し、「独法の統合、効率化、予算削減といった過去にあったような統合ではなく」「日本版 NIH に参加する独法は、独法横並びの人件費削減の例外扱い」[15]、むしろ「予算枠の増加」を求めるとするなど、日本版NIHの設計は単純な独立行政法人の整理・統合とは一線を画すべきであるとした。
長谷川によるこうした争点設定がなされた後、これに他の民間議員から賛意が示され、さらに文科・経産・厚労の各大臣も概ね賛同する形となった[16]。ただし、第2回産業競争力会議において提示された総合科学技術会議における「司令塔機能の拡大」とNIHの医療分野に関する「司令塔機能」は、機能的に重複可能性が示唆されており、両者がどのような関係として位置付けられるかという点については、総合科学技術会議による議論の進捗と各省間の調整に委ねられる形となった[17]
その後、各テーマ別会合における議論の結果を確認・共有する場として開かれた第5回産業競争力会議においては、テーマ別会合「健康長寿社会の実現」における論点として「医療分野における研究開発の司令塔である『日本版 NIH』の設置をすべき」ことが掲げられ、各大臣から各省の立場が明らかにされた。
まず、テーマ別会合の主査である佐藤康博(みずほフィナンシャルグループ取締役社長・グループCEO)が「まず何と言ってもライフサイエンス分野の研究開発の司令塔としての日本版 NIH を前に進めて実施してほしい」と整理しており、「健康長寿社会の実現」分科会の統一的な見解として「日本版NIH」の設置が位置付けられていること、また産業競争力会議本体においてもそれが指針として共有されるべきものであることが示された。また、東京大学教授の橋本からは、「司令塔機能」をめぐって設計上の競合が予想される総合科学技術会議と日本版NIHの関係について「ここは総合科学技術会議の方で司令塔機能を十分に果たしていき、日本版 NIH との密接な連携を図」るべきとの見解が示された。
これに対して、厚生労働大臣、文部科学大臣がそれぞれの見解を表明しているが、ここでは各省の「省益」に関する攻防がにわかに観察されるに至る[18]。研究予算の分配については、厚生労働大臣である田村憲久は、基本的にはそれまでの産業競争力会議、テーマ別分科会における長谷川を中心とした「日本版NIH」の設計を再整理としているにとどまっている一方、文部科学大臣の下村博文は自らの省が所管する基礎研究分野の重要性を強調し、研究開発予算全体の拡大へと議論を誘導するなどある種の予防線を引く姿勢をみせている。また、NIHの司令塔機能をどの機関が担うのかをめぐって足並みのずれもみられ、菅官房長官は「健康医療戦略室を設置したが、横断的なものを一つに集約することを是非やりたい」と述べるなど、自らの直轄組織である健康・医療戦略室を司令塔組織と位置づけたいという意向を示す一方、同様に司令塔機能の強化が議論されている総合科学技術会議の所管大臣である山本一太内閣府特命担当大臣(科学技術政策)も「総合科学技術会議の抜本的機能強化とうまく連携が取れるよう」に制度設計を行うよう要請を行った。
このように、当初は長谷川ら民間議員を中心とした議論のリードがなされ課題として共通の理解が形成されていたが、中盤に至り具体的な制度設計が視野に入り始める段階になるとどこが主導的立場を得るのかをめぐって各省間での駆け引きがみられることとなった。





4.「成長戦略スピーチ」と骨抜きとなった骨子
5回産業競争力会議における議論を踏まえて、42日には日本経済再生本部から本部長である安倍晋三首相名で「第4回・第5回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」が発表された。「内閣官房長官は関係閣僚を束ね、革新的な医療技術の実用化スピードを大幅に引き上げるため、研究と臨床の橋渡し、研究費の一元的配分、様々な研究活動・臨床研究の司令塔機能を創設するための具体方策を早急に政府内でとりまとめること」[19]と記されることにより、内閣官房長官をはじめとする関係大臣に対して「日本版NIH」の創設に向けて具体的に準備を進めるよう指示がなされた[20]
続いて、この「当面の政策対応」を受ける形で、419日に安倍首相が行った「成長戦略スピーチ」(1)[21]において「日本版NIH」の創設が具体的に言及されることにより、「日本版NIH」構想が広く政策課題として周知されることになった。ここでは、アメリカのNIHを「国家プロジェクトとして、自ら研究するだけでなく、民間も含めて国内外の臨床研究や治験のデータを統合・集約する。そして、薬でも、医療でも、機器でも、すべての技術を総動員して、ターゲットとなる病気への対策を一番の近道で研究しよう、という仕組み」と説明されており、日本においても同様の「国家プロジェクトを推進する仕組みが必要」と結論づけられている。
こうした安倍首相による説明からわかるように、「日本版NIH」は医療分野に関する「国家プロジェクトの推進」機関という位置づけであり、また産業競争力会議において「橋渡し」として議論されてきた「一気通貫」の意味は、「成長戦略スピーチ」においては「国家」[22]によって「研究から実用化まで」主導されるべきであると読むことができる。これは産業競争力会議における中心的な論点であった「橋渡し」「一元的配分」「司令塔機能」という組織の特徴を残しつつも、たとえば第2回産業競争力会議で長谷川により言及のあった事業者や開発者に対するインセンティブという概念はみられず、むしろ国家による主導に民間が参加するという形態が「政治的なリーダーシップ」という枠組みのもとに描かれていると考えられる。
そして、1回目のテーマ別会合から約1か月後にあたる422日に開かれた2回目のテーマ別会合では、民間議員からの要望があらためて整理されたうえで、「日本版NIH」に対する厚生労働省、文部科学省それぞれの見解が示された。
まず佐藤から①「ライフサイエンス予算の一体運営」、「臨床研究の司令塔機能」といったこれまでの論点の確認と、「日本版NIH」の創設に向けたタイムスケジュールの早期策定および各省において検討を開始するよう求められた。これを受けて、長谷川は首相指示を引き合いに出しながら、菅官房長官による具体的方策の取りまとめに期待感を示すとともに、自らが繰り返し強調している点である予算総額の拡大と人材の育成、さらには組織運営における「産業界の視点」の導入を求めた。このうち、「産業界の視点」については、これまでに登場していない新しい論点であり、「日本版NIH」が果たす「橋渡し」のプロセスに当初民間議員によって主張されていた「産業化」が含まれていないことに対する代替案を組織運営に求めたものであると理解することができる。
これに対して、田村厚生労働大臣は「臨床研究、基礎研究も含め司令塔機能をしっかりと果たしていくということもご指摘のとおり」進めるという方向で今準備に入っている」と述べ、厚生労働省として議論を進めていく立場を明らかにした。しかし、長谷川が求めた予算総額の拡大という点については、「予算はしっかり確保していかなければならないので、こちらとしても努力するが、財務省と協議をしていかなければいけない問題と思う」と述べていることから、「日本版NIH」についてもスクラップ・アンド・ビルドの原則に基づく事務事業の膨張抑制の例外ではないことが示唆されている[23]。他方、文部科学副大臣の福井は、文部科学省としても推進に対して前向きに検討している旨を説明したうえで、大臣である下村と同様に山中伸弥教授(京都大学)によるIPS細胞研究に対して自省が果たした役割、具体的には科学研究費やJST戦略創造支援金が果たした功績を強調しあらためて基礎研究の重要性を強調することにより、NIHの制度設計過程において基礎研究に対する予算制約が進まないよう予防線を引く姿勢をみせた。
このような民間議員からの要望と所管大臣からの応答、さらに各省大臣による予算をめぐる攻防という構図は、基本的に1回目のテーマ別会合と同じであり、また内容上も特段追加的なものが含まれているわけではなかった。これは2回目のテーマ別分科会の翌日にあたる423日に開催された第7回産業競争力会議において、「一般社団法人MEJMedical Excellence Japan)の骨子」とともに「『日本版NIH』の骨子」が会議の調整約である官房長官名で提出されたことが大きく影響しているものと考えられる[24]
この骨子は、基本的には第6回までの検討内容をもとに事務局[25]によって作成されたものとされる。ここでは、医療分野の研究開発の司令塔機能(「日本版NIH」)を創設するため、次の3点について「有機的・一体的につなげる」取り組みを行うという方向性が示された。第一に、司令塔本部の設置についてである。司令塔として、内閣に総理大臣、担当大臣、関係閣僚からなる推進本部を設置することにより「政治の強力なリーダーシップ」を発揮できる体制を構築し、総合戦略の策定と「重点化すべき研究分野とその目標を決定」、さらに「各省に計上されている医療分野の研究開発関連予算を一元化し(調整費など)、戦略的・重点的な予算配分を行う」とされた。第二に、中核組織の創設である。本部によって策定された「総合戦略に基づき、個別の研究テーマの選定、研究の進捗管理、事後評価」を担い、「研究を基礎段階から一気通貫で管理」する「独立行政法人を設置する」とされた。第三に、基礎研究と臨床研究の架橋についてである。民間資金の積極的を活用しながら、「企業の要求水準を満たすような国際水準の質の高い臨床研究・治験の実施に向けて、「臨床研究・治験の実施状況(対象疾患、実施内容、進捗状況等)」を網羅的に俯瞰できるデータベースの構築」するとされた。
これらは、 基本的には「第4回・第5回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」および「成長戦略スピーチ」(1)において公式に言及されている以上の内容を含むものではない。しかし、いくつかの点において会議には登場しなかった文脈が修正点として加えられており、たとえば中核組織の設置については、「スクラップアンドビルド原則に基づき行うこととし、公的部門の肥大化は行わない」という但し書きが付されるなど、総量規制的視点が加えられている点が着目されるべき点であった。「日本版NIH」の組織設計については、独立行政法人という形態については既に言及がなされていたものの、その位置づけについてはむしろ単純な独立行政法人の整理・統合とは一線を画すべきであるとして、全体の予算の増額さえ主張されていたが、骨子においてはそうした路線とはむしろ反対の方向性が示されることになったといえる。その意味で、骨子提出前の会議における議論と骨子における「公的部門の肥大化」という文言とは必ずしも整合性があるとは言い難い。同様に、「橋渡し」という概念についても明確な修正がなされている。「日本版NIH」をめぐる議論を主導してきた長谷川は、基礎研究から産業化に至るまでの過程を指して「橋渡し」と定義していたのに対して、骨子では「研究を臨床につなげる」という表現からわかるように、「橋渡し」の範囲が意図的に狭められている。当初射程とされてた産業化については、「民間資金」の活用や「企業の要求水準を満たす」といった形に改められるなど、全体的にそのトーンを落とす形となっている。
このように、「日本版NIHの骨子」は産業競争力会議における議論の枠組みを基本的には踏襲しながらも、民間議員による意見をそのまま反映したものとはなっておらず、むしろややトーンを弱めたものとなっているといってよい。こうした修正の背景には、「日本版NIHの骨子」の取りまとめが、アジェンダセッティングを行った民間議員とそのスタッフらの手にものではなく、健康・医療戦略室を主体とする行政サイドが関係各省間の調整を行ったうえで取りまとめを行ったことが影響を与えていると考えられよう。上述のような修正をみるかぎり、健康・医療戦略推進会議での議論と健康・医療戦略室によるその取りまとめ過程は、産業競争力会議において民間議員が主導した議論に対して実質的なブレーキとして機能したものと考えるほかない[26]
もっとも、第7回会議の席上では、事務局により取りまとめられた骨子に対する民間議員からの批判等はみられなかった。むしろテーマ別会合の主査である佐藤は、日本版NIHについて「419 日の会見で安倍総理から力強い言葉をいただいている。事務方におかれては、ライフサイエンス予算の一体運営に加え、大学や各種研究所の臨床研究の司令塔機能を発揮できるような制度設計を速やかに実行していただきたい」と述べるなど、骨子に対して肯定的ともとれる見解を示している。






5.民間議員による懸念と復活要望
 第8回の会議では、いわば骨抜きとなった骨子に対する民間議員からの修正要望が展開された。具体的には、骨子では触れられていなかったライフサイエンス予算と司令塔機能の所在の2点について意見が付された。ここまで「日本版NIH」をめぐる議論を実質的に主導してきた長谷川は「ライフサイエンスをこれからの主要産業として育てていくという政府の方針に基づくのであれば」「3,000 億円程度の予算の過半は、日本版 NIH に一本化していただきたい」[27]と述べるなど、ライフサイエンス予算総額を拡大するよう要望を行った。また、テーマ別会合の主査を務めた佐藤は過去の成長戦略が具体的な成果を生み出せなかった理由として「省庁横断的な戦略が省庁間の壁を乗り越えることができなかった」ことを挙げ、日本版NIHをはじめとする各省間の調整を要する案件においては「内閣府の機能強化あるいは政府内に司令塔機能を設置する」等の政治的リーダーシップでもってこれを突破する必要があるとの見解を示した。
 両者の主張は、次のように理解することができよう。第一に、骨子によって日本版NIHに関する議論が後退している点についての復活要望という側面である。長谷川の指摘するライフサイエンス予算の総額の拡大は、会議の場においては長谷川をはじめとする民間議員、文科・厚労の各大臣によって繰り返し言及がなされながらも、実際には組織面における総量規制からもわかるように骨子においては明確に落とされている点である。第二に、未整理の論点についての指摘という側面である。会議の場においてもNIHと総合科学技術会議および健康・医療戦略室との関係性を明らかにする必要性が指摘されていたが、骨子においては閣僚級から構成される推進本部による企画と再編された独立行政法人による実施というプリンシパル・エージェントモデルに基づく運用が言及されているにとどまっており、むしろ新たに設置される本部と既存の司令塔機能との関係性がよりわかりにくくなったとさえいえる。
 以上の民間議員の指摘からわかるように、骨子発表後の会議においては、骨子が民間議員にとってそれまでの議論よりも後退したものと理解されており、その点に対する軌道修正が試みられている。もっとも、民間議員から提起されたこれらの問題点は、各省間をまたがる性質の課題であるがゆえにそれまでの会議においても意見調整を必要とすることが認識されつつも棚上げにされてきた点である。
こうした流れは、第9回の会議も同様であり、菅内閣官房長官が骨子をもとに健康・医療戦略室を中心に「健康・医療戦略」の取りまとめを急ぐ旨が説明されると、やはり長谷川が予算規模の拡大に対する理解を求めるという構図がみられた[28]。実際、第9回の配布資料である「成長戦略の取りまとめに向けた論点について」は、長谷川が主張するような各論についてその掘り下げを意図するものではなく、むしろ「成長戦略の作り方・アピールの仕方」「ストーリー」「姿勢」などの項目立てとなっており、議論の主軸は印象的な発表の仕方を模索することであった。
 これに続く第10回から第12回の会議は、最終的に公表される「成長戦略」の取りまとめに向けた調整の過程であり、それぞれ1週間ずつのインターバルを挟みながら、第10回で「成長戦略の基本的考え方」[29]が確認された後、第11回では「成長戦略(素案)」、「成長戦略 中短期工程表()」および「戦略市場創造プラン(ロードマップ)()[30]を、第12回は「成長戦略()」、「成長戦略 中短期工程表()」および「戦略市場創造プラン(ロードマップ)()[31]が検討された。素案から案、そして実際の成長戦略に至るまでには、部分的なレトリックの変化を除いて基本的に内容上の修正等は行われていない[32]。この段階に至ると民間議員による復活要望も消極的なものとなっていることがうかがわれる[33]





6.おわりに
本稿では、前回にひきつづき安倍政権下の主要な舞台装置の一つである産業競争力会議について、「日本版NIH」をめぐる議論の展開を観察することを通じて、特に運用面における特徴を検討した。本稿で詳述したように、「日本版NIH」論は一人の民間議員によるアジェンダセッティングと議論の牽引がなされる形で、国家レベルの政策として定位されることになったアイディアである。先に経済財政諮問会議との比較において言及したように、産業競争力会議は制度面においてはいわば「擬制」にすぎないものであるが、この「民間議員によるアジェンダセッティング」という点に着目する限り、その運用実態は極めて経済財政諮問会議と類似した性格を持っていたといえる。
ただし、この民間議員による強力なリーダーシップという特徴は、なるほどこれまでの同様の構想が蹉跌を繰り返してきたことを考えれば、構想の実現に向けての事実上の駆動力となりえた点はやはり一定の評価ができるものといえる。しかし、他方でモデルとされたアメリカの「NIH」と「日本版NIH」の関係性を考えれば、それがすなわち議論の正確さや政策として高い精度を持っていたことを意味するわけではない。この点については、稿をあらためて詳しく論じることとしたい。




[1] たとえば、直近のものとしては、201266日に民主党政権下で策定された「医療イノベーション5か年戦」においても言及がみられており、研究予算の一体的運用を目指す仕組みとして「米国 NIHNational Institutes of Health USA)の取組を参考にして、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の創薬関連の研究開発予算の効率的、一体的な確保及び執行について、内閣官房医療イノベーション推進室及び内閣府を中心に関係府省において検討を行う」とされていた。本計画では、平成24年度から検討を開始し平成26年度中に実施を予定していた。なお、初めて国家戦略レベルで「日本版NIH」に関する言及があったのは、1999年に小渕政権下で策定された「国家産業技術戦略」において、「日本版BECON」として取り上げられていた。
[2] 自由民主党「日本を取り戻す 参議院選挙公約2013」および公明党「安定は希望です 参院選重点政策2013」参照.
[3] 城山英明「政策過程における経済財政諮問会議の役割と特質-運用分析と国際比較の観点から」前掲,40. 城山は、経済財政諮問の特質として、民間議員がアジェンダ設定のうえで大きな役割を果たしており、「体制内アドボカシ」として機能していたことを指摘している。
[4] 読売新聞(20121128日付)参照.
[5] 公益社団法人経済同友会「長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨」(2012124)参照. 長谷川が民間議員を務めていた国家戦略会議および医療イノベーション推進会議ほかのことを念頭においた発言であると思われる。
[6] また、産業競争力会議の場以外においても、経済同友会代表幹事の立場から「日本版NIH」の創設の必要性を積極的に主張していた(産経新聞(2013326)参照。
[7] 1回産業競争力会議議事要旨(平成25123),4.
[8] 長谷川閑史「第 1回産業競争力会議 意見」第1回産業競争力会議配布資料,6
[9] なお、この点には異論が存在する。たとえば、林[2013]は、内閣での調整プロセスの一元化や研究段階から臨床段階までの一貫した実施機関としての疾病別ナショナルセンターの整備は既に試みられているとし、むしろそれらがいまだ大きな成果を挙げていない点を指摘している。林良造「成長戦略を問う医療産業 創意促す診療報酬制度に」日本経済新聞朝刊経済教室欄 (201367) .
[10] 2回産業競争力会議議事要旨(平成25218),10
[11] 榊原定征、坂根正弘、佐藤康博、長谷川閑史、橋本和仁「科学技術イノベーション推進体制強化に向けて」第2回産業競争力会議提出資料,2
[12] ただし、この時点では「日本版NIH」が産業競争力会議における議論の対象として大きな比重を占めていたとは考えにくい。実際、125日に第1回産業競争力会議における各議員の発言を踏まえて発表された「第1回産業競争力会議の議論を踏まえた 当面の政策対応について」では、後述の総合科学技術会議の司令塔機能の強化についての言及はあるものの、「日本版NIH」そのものについては触れられていない。
[13] ここで、長谷川閑史と各省大臣以外に「日本版NIH」に賛意を示したのは、橋本和仁(東京大学大学院工学系研究科教授)、新浪剛史(株式会社ローソン代表取締役社長 CEO)2名である。
[14] 産業競争力会議テーマ別分科会「健康長寿社会の実現」(平成25322),1-11
[15] なお、ここで長谷川氏が求めた独立行政法人改革に関する「例外扱い」には、医薬品、医療機器等の審査、安全対策、救済を業務としている医薬品医療機器総合機構(PMDA)も含まれている。
[16] ただし、この段階では、文部科学省については明確に賛意を示しておらず、大臣である下村博文が総合科学技術会議の司令塔機能の検討との整合性について言及するにとどまっている。
[17] 「日本版NIH」に関する各省側の主導については、甘利明甘利経済再生担当大臣が「日本版 NIH については、ぜひ文科大臣と厚労大臣で、政治主導で進めてほしい」との発言していることから、基本的には文部科学省-厚生労働省間での調整が求められる課題であり、経済産業省は大きなパワーを有していない可能性が考えられる。
[18] 両大臣による「日本版NIH」に関する言及は次の通りである。
(田村憲久厚生労働大臣)医薬品・医療機器等の開発について、実用化にうまくつながらない現状を打破するため、基礎研究から審査・薬事承認までそれぞれの段階で支援を強化し、革新的な医薬品・医療機器を迅速に実用化する。特に、研究活動や臨床研究の司令塔機能を強化・拡充することが必要と考えており、ライフサイエンス研究費を拡充しつつ一元化し、予算の執行、評価・PDCA、臨床研究・治験の推進を一元的に行う日本版 NIH の設置を検討していく。
(下村博文文部科学大臣)日本版 NIH 構想の実現に向けて、文部科学省としてもしっかりと取り組んでいく。今後、構想の具体化に向けて、内閣官房の健康・医療戦略室及び関係省と連携・協力して検討していく。 検討に当たっては、まず、健康・医療に関する研究開発予算全体の増額が必要であることに留意すべき。我が国のライフサイエンス予算は米国に比べて約 10 分の1と格段に少なく、優れた人材を集めるためにも、予算の総額を増やしていくことが不可欠である。次に、基礎研究の優れた成果を臨床研究・治験にまでつなげるための、いわゆる橋渡し研究の強化が必要である。文部科学省においては、大学等が基礎研究の成果を自らの力で臨床研究や治験に橋渡しすることを可能とするために、全国7カ所の橋渡し研究支援拠点を整備し成果を挙げている。文部科学省としては、このような実績を踏まえつつ、日本版 NIH 構想の実現により、橋渡し研究の強化に貢献していく。更に、この分野における基礎研究を強化していくことが重要な課題である。予算が少ない我が国が、革新的な創薬等につながる優れたシーズを創出し続けるためには、京都大学山中教授によるiPS 細胞のような、従来の概念を覆すような卓越した基礎研究の推進が必要不可欠である。
[19] 日本経済再生本部「第4回・第5回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」(201342)
[20] なお、「日本版NIH」構想(産業競争力会議)に関してマスメディア(三大紙)にが取り上げ始めたのは、この「第4回・第5回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」が発表された段階からである。読売新聞(201343,東京朝刊). ただし、この段階での報道がなされたのは三大紙のなかでは読売新聞のみであり、朝日新聞および毎日新聞による報道は、後述の「成長戦略スピーチ」(1)が発表されてから行われた。朝日新聞(2013420,朝刊,1総合)および毎日新聞(2013420,東京朝刊).
[21] 安倍晋三総理大臣による「成長戦略スピーチ」(第一弾)のうち、「日本版NIH」に関する部分(「健康長寿社会」から創造される成長産業)は次の通りである(下線部筆者)
私は、潰瘍性大腸炎という難病で、前回、総理の職を辞することとなりました。5年前に、画期的な新薬ができて回復し、再び、総理大臣に就任することができました。しかし、この新薬は、日本では、承認が25年も遅れました。
 承認審査にかかる期間は、どんどん短くなってきています。むしろ、問題は、開発から申請までに時間がかかってしまうことです。国内の臨床データの収集や治験を進める体制が不十分であることが、その最も大きな理由です。どこかの大学病院で治験をやろうとしても、一か所だけでは病床数が少ないので、数が集まらない。別の病院の病床を活用しようとしても、データの取り方もバラバラで、横の連携がとりにくい。結果として、開発などに相当な時間を要してしまいます。再生医療のような未踏の技術開発は、成果につながらないリスクも高く、民間企業は二の足を踏みがちです。そのため、新たな分野へのチャレンジほど、進歩は遅れがちです。
 こうした課題に19世紀に直面した国がありました。アメリカです。19世紀後半、多くの移民が集まり、コレラの流行が懸念されました。民間に対応をゆだねる余裕もなく、国が主体となって研究所をつくってコレラ対策を進めました。ここから、時代を経て、「アメリカ国立衛生研究所/NIH」が生まれました。
 国家プロジェクトとして、自ら研究するだけでなく、民間も含めて国内外の臨床研究や治験のデータを統合・集約する。そして、薬でも、医療でも、機器でも、すべての技術を総動員して、ターゲットとなる病気への対策を一番の近道で研究しよう、という仕組みです。その結果、NIHは、心臓病を半世紀で60%減少するなど、国内の疾病対策に大きな成果をあげています。さらに、現在、ガンの研究所やアレルギーの研究所など、全部で27の研究機関・施設を抱え、2万人のスタッフを擁して、世界における医療の進歩をリードしています。
 日本でも、再生医療をはじめ、「健康長寿社会」に向けて、最先端の医療技術を開発していくためには、アメリカのNIHのような国家プロジェクトを推進する仕組みが必要です。いわば「日本版NIH」とも呼ぶべき体制をつくりあげます。統一的な基盤をつくって国内外の臨床研究や治験について、データを統合し、製薬メーカー、機器メーカー、病院が一体となって取り組みます。官民一体となって、研究から実用化までを一気通貫でつなぐことで、再生医療・創薬など最新の医療技術の新たな地平を、私が先頭に立って切り開いてまいります。
[22] ここでいう「国家」は、後述する「NIHの骨子」においては「政治的なリーダーシップ」という言葉に置き換えられている。
[23] スクラップ・アンド・ビルドについては、通常総務省行政管理局による各府省に対する機構上の査定を指すが、ここでは予算編成過程における財務省主計局による査定を指しているものと思われる。
[24] 既に2回目のテーマ別会合が開催された422日の段階では、翌日の産業競争力会議において「『日本版NIH』の骨子」が資料として提出されることが予定されており、骨子との内容上の整合性がある程度考慮された形で進められたものと思われる。なお、通常、審議会等(懇談会を含む)においては、骨子の提出の前段階として骨子案の提出とそれに対する検討および修正がなされるが、「日本版NIH」については少なくとも公開されている資料をみるかぎりでは、骨子案が作成された様子はみられない。
[25] ここでいう事務局とは、日本経済再生総合本部ではなく、後述の健康・医療戦略室のことを指す。
[26] 7回産業競争力会議議事要旨(平成25423),8. 菅内閣官房長官の発言を参照.
[27] 8回産業競争力会議議事要旨(平成25514),7-8.
[28] 9回産業競争力会議議事要旨(平成25514),13.
[29] 「成長戦略の基本的考え方」(10回産業競争力会議提出資料)(2013529).「基本的考え方」では、「医療関連産業の活性化」という項目のなかに「『日本版NIH』創設」という文言が盛り込まれている。
[30] 「成長戦略(素案)」、「成長戦略 中短期工程表()」および「戦略市場創造プラン(ロードマップ)()(11回産業競争力会議提出資料)(201365).
[31] 「成長戦略()、「成長戦略 中短期工程表()」および「戦略市場創造プラン(ロードマップ)()(12回産業競争力会議提出資料)(2013612). 中短期工程表およびロードマップについても成長戦略の素案からの一部表現の変化に合わせてフォントの修正等が行われている。
[32] 「日本版NIH」に関して、素案から実際の成長戦略にかけての修正点は、次の通りである。まず素案から案にかけては、読点の削除、読点を「及び」に変更、表記の変更(「中央 IRB(倫理 審査委員会)」から「中央治験審査委員会」)、フォントの変更(「NIH」から「NIH)が行われ、案から実際の成長戦略にかけては、難読語にルビの追加(「俯瞰」に「(ふかん))、表現の修正(「講じる」から「講ずる」)がなされた。
[33] 11回産業競争力会議が開催された65日の午後には、安倍首相による「成長戦略スピーチ」(3)が行われ、「新たな健康長寿産業の創造」に向けて意欲的に取り組む旨が主張されたが、ここでは「日本版NIH」への言及はみられなかった。この段階では、既に「日本版NIH」による「橋渡し」の対象は基礎研究から臨床にかけてまでに限定されており、産業化は射程外に置かれていたためであると考えられる。